歩き疲れたのか、はたまた日々の疲れか
近くの木にもたれかかって、身体を休めている。

自分らしくはないが、風や葉が掠れあう音が心地良いと感じた。
此処最近、天気の良い日が続いている。
雲の間から見える、青すぎる空が、何処となく「アイツ」に似ている。

いつも、自分がそっけない態度をしても、普通に話してくる。
最初は鬱陶しいとしか思えなかった。
トレーナーとしても、弱いとしか思えない。
厄介な事に巻き込まれたくないから避けていた筈なのに
今はどうしてか、無性に会いたくなる時がある。
晴れた時は特に―・・・。

「・・・くだらん」

正直な話、そういう感情と無縁だと思っていた。
だからこそ、自分自身で一番驚いている。
周りの人間なんて気にした事なかった。
深く考えた事もなかった。
こうしている内にも、脳内で少しずつ、アイツの笑顔が再生されていく。
かき消すように思考を変えるが、邪魔される。
此処まで惹かれてしまった自分が、逆に情けない。
こんな表情を見せたら、きっとからかわれるに違いない。

「ムカツク」

別にアイツがムカつく訳じゃなくて、自分の不器用さにムカついた。
今更自分の性格を変えるのは難しい。
鈍感なアイツが気付くのは、もっともっと後の事かもしれない。
もしかしたら、気付いてくれないかもしれない。
それなら、力ずくで気付かせてやってもいい。

「やめよう」

考えるのを一旦やめる事にした。
考えすぎてもまとまらないから。
やめた瞬間に睡魔が襲う。
自分の欲のままに眠りについた。


「あ、シンジだ」

サトシは、寝ているシンジに近づいた。
規則正しい寝息、今まで見たことない安らいだ顔に微笑んだ。
手を持ち上げ、起こさないように、そっと握り締めた。

「人の気持ちも知らないで寝やがって」

そう呟くと、サトシは立ち上がり、仲間が待っている場所へ戻った。
数分後、シンジは目を覚ました。
片方の手がやたらと熱い。
誰かと手を握っていたような、そんな感覚がする。

「アイツ・・・な、わけないか」


るはずのない温もり(2009/08/16)