出会いがあれば、必ず別れがある。
旅をしていれば、経験する事である。
いちいち出会ったトレーナーを覚えているほど
自分は出来ていない、寧ろ覚えていたくない。

だが、1人だけ、やたらと遭遇する奴がいて
忘れようにも忘れられないのだった。

出会う回数を重ねる度に、離したくない衝動に駆られる。
子供が玩具を独り占めする感じに似ていた。
これを「独占欲」というのだろうか―・・・。
幼稚な自分が垣間見えて、複雑な気持ちになった。
だから、アイツだけには出会いたくないのに・・・。

「シンジ!お前も此処のポケモンセンターに居たのか」
「ああ、何でお前もいるんだ」
「しょうがないだろぉ、バトルで皆疲れてるんだから、休ませないと」
「要領が悪いんだろ」
「お前会うといつも失礼な事いうよなぁ・・・じゃあ俺部屋帰るよ」

短い会話が終わった途端に、また考えていた事を思い出した。
風と一緒に流れた会話に、少しの侘しさを感じながら・・・。
部屋に帰したくなかった、それが正直な気持ちだ。
言ってしまえば、きっと不思議がるだろう。
言えない自分がもどかしくて、なんだか笑えた。

ロビーで考えるのも馬鹿らしくなってきた。
部屋に戻ってベッドに伏せる。
このまま寝てしまおうかと思った瞬間、扉を叩く音がした。
はい、と言うと、聞き覚えのある声がした。
入るぞ、の一言が掛かった瞬間、また出会いたくない奴が現れた。

「よ」
「またお前か、なんの用だ」
「いや、なんか元気なさそうだったからさ」
「ほっとけ」

自分の横に座るアイツ。
ベッドのスプリングが小さく鳴いた。
伏せていた身体を起こし、横に座る。

「なんかあったのか?」
「何もない、此処を出た後どう歩くか考えてただけだ」

普段は何も考えてないような奴なのに
どうしてこういう時だけ鋭いんだろう。
少しムカツク・・・と考えていると、アイツは話を続けた。

「そっか、何か悪いな、勝手な思い込みで来て」
「別に構わん」
「ならもうちょっと居る、今暇なんだよな」

へへっと笑うと、一方的に話を始めた。
この前誰と戦って、どんなポケモンと出会って
次はジムではこいつを使うだの、話は尽きなかった。
リアクションを起こさない俺の事を無視しながら。

自分の性格を知っていて話すのか
ただの無神経なのかは、よく分からない。
ずかずかと人の心に入ってくるアイツが、憎らしく感じる。
それと同時にどうしようもない愛しさが溢れる。

ただ聞くだけしか出来ない自分が少し惨めに感じられた。
でも、此処で何かリアクションをすれば・・・。
色んな事が交差して、結局何も出来なかった。
気付けば、夜も遅くなっていた。

「俺、部屋帰るよ」
「ああ」
「話聞いてくれてありがとうな」
「別に」
「じゃあ」

笑顔で帰るアイツ。
1人の部屋に響く、扉の閉まる音。

ああ、今なら言えるのに。
独り占めしたいのに。
扉を閉める直前に戻れるなら、こう言いたい。

ちらに来い(2009/08/16)