「なぁ」
「おい」

最近の俺の呼ばれ方だ。
親しくなると、気軽に呼び止められるせいなんだろうか。
名前を呼ばれる事が少なくなってきた。
自分の性分には合わないが、名前を呼ばれる事は嫌いではない。

「なーぁ、話聞いてんのかよ」
「聞いている」
「ったく、今いいとこなのによー」

不貞腐れるコイツは、あまり少年に見えない。
寧ろ少女のようだった。
ころころ変わっていく表情は、飽きを感じさせない。
どれだけ話したい事があるのかは、全く分からないが
とにかく話が尽きない、そして俺はいつも聞く側だ。

「おい」
「なんだよ」
「俺にそんな話かけて楽しいのか」
「だって、何か落ち着くし」

いきなりなんだよ、といいながら笑う姿が、愛しかった。
少し恥ずかしい気持ちが上回って、そっぽを向く。
ほんのちょっとの静寂を遮り、話がまた始まった。
聞くのも全然悪くない。

「なぁ」
「なんだ」
「最近俺の事名前で呼ばないよな?」
「は?」

それはこっちの台詞だと言いたい。
言いたい事を言われてしまい、結構悔しい。
お互いに名前で呼ぶ事をすっかり忘れていたらしい。

「呼んでくれよ、偶には」
「嫌だね」
「何でだよ、名前ぐらいいいだろ」

じゃあ俺の名前も呼べよ。
とは言えない自分が居たが、覚悟を決めた。

「ほら」
「なあ…」
「なんだよ」

俺は、アイツの両頬を手で軽くおさえた。
少しだけ赤みを増した顔に愛しさを覚える。

「サトシ」
「・・・な、なんだよ」
「俺は名前を呼んだ、さあ次はお前が」

の名を呼べ(2009/08/16)