のどかな町に響き渡る声。
どうやら「帰ってきた」らしい。
今までとは違う仲間を連れて。

トレーナーをやめて、研究者になってから
フィールドワークを数え切れないくらいした。
それからは、祖父の手伝いで書類を纏めたりだとか
他の研究者と連絡を取り合いながら、レポートを書き上げたりとか
研究者としてのステップを1歩1歩重ねていっていた。

それと同時に、帰ってきたアイツは、トレーナーとしての道を
着実に歩き続けていた、純粋なあの心は持ち続けたまま。

今日はパーティーをする、とアイツの母親と祖父に聞かされ
頼まれていた書類を一旦やめて、パーティーの作業に取り掛かる事にした。
飾りつけや料理の準備が進んでいき、自分の仕事がなくなった。

「きっとサトシ暇してるわ、シゲルくん遊んであげてくれないかしら」
「はい、分かりました」

アイツ・・・サトシの母親はありがとうと微笑むと
料理の準備を始めた。それと同時に家を出た。

「うわ、ピカチュウ、冷たいって!」
「ピィカ!」

自分の庭に咲いている大きな向日葵に水を与えていた。
相棒のピカチュウといつの間にか、水の掛け合いになっていたみたいだ。
あまりにも楽しそうで、声を掛ける事を渋らせたが
少し話がしたいと思い、声を掛けた。

「おい、サトシ」
「あ、シゲル!なんか用か?」
「君の馬鹿面を見に来たんだよ、サートシ君」
「な・・・っ、俺が馬鹿だと!」
「そんなことは良い、少し話をしないか」

どうでもよくない!と怒りつつも、昔よく遊んだ場所へ向かった。
マサラがよく見える、木の上。

「うわー、懐かしいなぁ、よく此処で遊んだっけなぁ」
「そうだな、サトシはよく怪我をしていたな、馬鹿だったから」
「まだ馬鹿を引っ張るのか、しつこいぞ!」
「そうやって突っかかるところも変わってない」

手を振り上げ、殴りかかりそうだったサトシの腕は
静かにおろされ、彼はそっぽを向いた。
そんな姿が可愛くて、口元が緩んでしまう。
しかし、こういう事を聞きたい訳じゃなかった。

「なぁ、お前、次いつ出るんだ」
「明日かな」
「また急に行くんだな」
「ああ、まだ他にもリーグとか、知らないポケモンとかいるしな」
「僕も、明日此処を出ようかな」
「え、なんで?!」
「いや、僕もフィールドワークをし続けたいからね」
「そうかぁ、じゃあマサラに次帰っても会えないかもな」

少し寂しそうな顔をするサトシ。
きっと今の自分もこんな顔をしているに違いない。

「なぁ、サトシ」
「ん」
「もしも、次、街や他の場所で"偶然巡り合えたら"一緒に旅をしないか」
「偶然じゃないと、ダメか?」
「そうだね」

偶然じゃなければ、きっと
君を沢山傷つけてしまうかもしれないから。
もし、君が僕と繋がっているのなら、きっと会える。
これはある意味、一種の賭けかもしれない。

「それじゃあ約束な!」
「ああ」

小指に絡めた約束を夕日が照らし出す。

「そろそろ、戻ろうか」
「おう!今日の夕飯は何かなぁ」

明日、僕らは旅立つ。
巡り合う奇跡を信じて―

だ偶然を待つ(2009/08/16)