次の街を目指し、歩き続けている途中
偶然出会ったのが始まりだった。

いつも挨拶を交わしても、ぶっきらぼうに返されるし
何を話しても、聞いてるか聞いてないかよく分からない。
確かにトレーナーとしては許せない部分は沢山あるけれど
一人の人間として、近づきたいのだ。
その気持ちを知ってか知らずか、相変わらずそっぽを向く。

「おいー、シンジ聞いてるのかよ」
「ふん、勝手に話してろ」

風が心地よい昼、久々に出会えた嬉しさからか
自分自身の事や、ポケモンの事、仲間の事を沢山話した。
けどやっぱり、聞いてるのかよく分からない。

「ごめん、もう話すのやめるよ」

一人で話すのが急に虚しくなって、傍から離れた。
少し落ち込んだ顔を見て、タケシが声を掛けてきた。

「おい、どうした、サトシ」
「いや・・・、シンジなんだけどさ、話聞いてくれてないみたいで」
「それは、捉え方の問題じゃないか?」
「捉え方?」

タケシは、「ああ」と答えて、言葉を続けた。

「皆誰しもが、サトシみたいに、感情を素直に表しているわけじゃないんだぞ」
「それって俺が馬鹿みたいじゃないか」

タケシは、サトシを宥めながら、話を続けた。

「そうはいってない、まあ、落ち着けって。
 シゲルみたいに嫌味を言うやつもいれば、他の態度を示す奴もいる。
 シンジは、自分の感情を出すのが、人より少し不器用なだけで
 本当はちゃんとサトシの話を聞いていると思うんだ」

サトシは少し考えた。
確かに、シゲルもたまに聞いてるか分からない時があるけれど
自分の話が終わったら、返答はするしなぁ・・・。
でも、シンジはしてくれないし・・・。
と、悶々と思考を巡らせていると、少し上から降る言葉に遮られた。

「シンジは、話してる途中で帰ったりしたか?」
「え、いや、帰ってない・・・」
「それは、ちゃんと聞いてるって事だ、だから不安になる事はない」
「・・・そっか、そうだよな、そういう人もいるもんな!」

サトシは、ありがとう、と言うと、タケシに手を振り
また、シンジのいる方へ走り出していった。

「まったく、手が焼ける奴らだ・・・」

と、タケシは呟くと、昼ごはんの続きをはじめた。


「やっぱり、話足りないから来た、横座ってもいいか?」
「勝手にしろ」

とすん、と、サトシはシンジの横に座って話を始めた。
さっきのタケシの助言があったからか、少し心に余裕が出来たらしく
話し足りなかった事を沢山話せたような気がした。
昼ごはんの準備が終わったと、ピカチュウが呼びにくるまで
サトシは時間を忘れて、シンジに話をしていたみたいだった。

「ピカチュウ・・・、あ、もう昼ごはんの時間かぁ」
「ぬるい奴」
「なんだよ、俺さっきの話で変な事言ったか?」
「昼飯だろ、早く行け」

サトシは、じゃあ、また、と言うと、ピカチュウと足早に戻っていった。
見送る彼の顔は少し微笑みが浮かんでいた。


え方の問題(2009/08/16)